
背骨治療の専門医に聞いてみました
足のしびれや痛みの原因となる脊柱管狭窄症高齢でも負担の少ない内視鏡手術とは

国際医療福祉大学病院 整形外科
手術は、傷んだ神経を「治す」ものではなく、あくまで圧迫を取り除いて環境を整える治療であるという点が重要です。神経は一度ダメージを負うと元に戻るのは難しいため、回復困難な状況になる前のタイミングを見極められるよう、専門医とよく相談してほしいと思います。
圧迫を放置すると、神経麻痺によって足首を上げる筋肉が動かなくなる「下垂足」を引き起こすことがあります。さらには、膀胱や直腸の神経にまで障害が及び、排尿や排便のコントロールが難しくなる「膀胱直腸障害」を生じることもあります。ここまで進行してしまうと、圧迫を取り除いても十分な症状の回復が見込めないことが多くなります。
また、長期間歩けない状態が続くと、筋力や体力が落ち、いざ手術をしてもリハビリに時間がかかります。特に高齢の方では、動かないでいることで運動機能が低下するロコモティブシンドロームに陥ることがあります。手術を受けるかどうかの判断は、あくまで患者さん次第ではありますが、「我慢できるうちは様子を見る」ではなく、生活機能の維持のために、適切なタイミングで適切な治療に向き合うことが大切です。
高齢になると持病を抱える方が増えるため、手術のリスクは確かに高くなります。しかし、年齢そのものが手術の可否を決めるわけではありません。最近では高齢でも元気な方が多く、全身状態が良好であれば、90 代でも手術が可能なこともあります。
一方、心筋梗塞や脳梗塞の既往がある方は、慎重に考える必要があります。手術は全身麻酔で行いますので、安全に麻酔を受けられるかどうかも重要な判断基準です。
一人暮らしの高齢者も増える中、車を使わずに暮らす必要がある方などは特に「自分の足で生活を続けたい」と考えて手術を希望される方が多い印象です。「年だからもう手術は無理だろう」と最初からあきらめるのではなく、全身の健康状態や生活環境を含めて主治医としっかり相談してみてください。

脊柱管狭窄症の手術は、神経を圧迫している部分を取り除き、神経の通り道を広げることを目的に行います。「除圧術」と呼ばれるその手法は時代とともに大きく進化してきました。かつて主流だった「椎弓切除術」は、背骨の一部である椎弓を広く切除して圧迫を取り除く方法で、神経への通り道をしっかり確保できる反面、筋肉を大きく剥離し、骨を広範囲に削るため体への負担が小さくありませんでした。
その後、より低侵襲な方法として「開窓術」が登場しました。圧迫している部分だけを選択的に削って「窓」を開けるように除圧する方法で、背骨の構造を温存しやすいのが特徴です。さらに現在では、技術の進歩により小さな切開から内視鏡を用いて行う手術が普及し、出血量や筋肉へのダメージが大幅に減少しています。
また、腰椎変性すべり症を合併しているケースなど不安定性を伴う場合には、除圧をした上で器具を用いて骨を固定させる「固定術」を行うこともあります。

内視鏡を用いた手術は、従来型の手術に比べて体への負担が格段に少なく、出血量もごくわずかです。手術では、チューブ状のレトラクター(筒状の器具)を用いて筋肉や皮膚をそっと広げ、その中に内視鏡や器具を挿入して操作を行います。内視鏡手術は、当初は除圧を目的としたものが中心でしたが、近年では内視鏡下での固定術も徐々に広がってきました。MELIF(MicroEndoscopicLumbarInterbodyFusion)やPETLIF(PercutaneousEndoscopicTransforaminalLumbar InterbodyFusion)と呼ばれる腰椎椎体間固定術もその一例です。これら2つは使用する内視鏡の径とアプローチ方法が異なりますが、いずれも「より小さな傷で、神経の圧迫を取り除き、安定性を得る」ことを目的とするものです。

手術では、まず数カ所つくった小さな切開から、筋肉の繊維の隙間を通してスクリューを挿入し、棒(ロッド)で連結して背骨を安定させます。その後、内視鏡下で椎間板を切除して人工のスペーサーを入れます。スクリュー&ロッドで骨と骨の間を固定して、上下の骨とスペーサーが時間の経過とともに癒合することで不安定になっていた背骨の固定が完成します。
内視鏡を用いた固定術が日本で本格的に行われるようになったのは、ここ数年のことです。そのため、対応できる施設はまだ限られていますが、低侵襲手術の選択肢を広げるものとして注目されています。

